だ、誰!? 『バットマン』クリスチャン・ベールが驚異の肉体改造で挑んだ『バイス』

『バイス』クリスチャン・ベール
『バイス』クリスチャン・ベール
第91回アカデミー賞で、『ボヘミアン・ラプソディ』(公開中)のラミ・マレックに主演男優賞を譲ったものの、最強の対抗馬とされていたのが、『バイス』(4月5日公開)のクリスチャン・ベールだ。あの「バットマン」シリーズのイケメン俳優が、本作では目を疑うような“ハゲデブおじさん”になりきっている。その驚異的な肉体改造は、もはやCGレベルの変貌ぶりだ。

ベールが扮したのは、2001年にジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任し、大統領の影に隠れながら、強大な権力を振るったディック・チェイニー役。彼の青年時代から、貫禄たっぷりの副大統領時代までを演じるにあたり、ベールは体重を20キロ増量し、髪の毛を剃って眉毛を脱色。また、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したメイクアップアーティストたちの力も借りつつ、見事にチェイニーになりきった。その完成形に、あのイケメン、ベールはどこにもいない。

酒癖が悪く、ろくでなしだった青年チェイニーが政界に入ったのは、恋人で才女のリン(エイミー・アダムス)にお尻を叩かれたから。後に国防長官となるドナルド・ラムズフェルドのもとで政治のノウハウを学んだチェイニーは、妻と二人三脚で出世コースを闊歩し、リチャード・ニクソン政権、ドナルド・レーガン政権を経て、ジョージ・H・W・ブッシュ政権で国防長官となる。一時期は政界を去ったが、今度は2001年にジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任し、“影の大統領”としてありとあらゆる実権を握っていく。

アダム・マッケイ監督が綿密なリサーチをして脚本を書いたので、アメリカの政界の舞台裏がかなりリアルに描かれる。近年の政治の暴露ネタが、ここまでしっかりと映画化できるのは、アメリカならではだろう。チェイニーがブッシュ大統領に「戦争の決断はあなたが下す」と扇動するくだりには思わず息を呑む。9.11の同時多発テロ発生後の巧妙な情報操作についても、わかりやすく軽妙に紹介されているので、政治に明るくない人でもぐいぐいと引き込まれそう。

イラク戦争についての責任を問われても「私は謝らない。国民の安全を守っている」とキッパリ言ってのけたチェイニー。その恐るべき悪行をフィーチャーしながら、アメリカを守ろうとしたひとりの政治家としての正義や、政治家人生に大きな影響を与えた妻や娘のエピソードも入れ込んだ点が、この映画の懐の深さだ。折しも“令和”という新時代を迎える今、歴史を振り返る上でも若い人たちにぜひ観てほしい!

『バイス』
監督・脚本:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェルほか
2019年4月5日(金)より全国ロードショー
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